常夏の島ハワイにおいて、「雪と氷」を司る美しき女神が存在します。ハワイ島マウナケアの山頂に住む雪の女神、ポリアフ(Poliʻahu)です。
ポリアフの物語は、燃え上がるようなプライドや、胸を引き裂かれるような悲恋に満ちており、フラの表現において非常に感情移入しやすいテーマとなっています。本記事では、フラにおける表現力の向上に繋がるポリアフの神話と、その背景にある深い感情の動きを解説します。

1. 火の女神ペレとの激闘!雪と炎のコントラスト
ポリアフの神話を語る上で欠かせないのが、火山の女神ペレとの激しいライバル関係です。
ハワイ島の北側、雲と霧に包まれたマウナケアの山頂を領地とするポリアフは、非常に負けず嫌いなアスリートでもありました。彼女は時折人間の姿になり、木製のソリで斜面を一気に滑り降りるスポーツ「ホルア(hōlua)」を楽しんでいました。
ある日、見知らぬ美しい乙女がポリアフにホルアの勝負を挑みます。激しいレースの中、地面がどんどん熱くなり、ポリアフは相手が火の女神ペレであることに気付きます。ポリアフがレースをリードし始めると、ペレは怒り狂い、火の粉を吹き上げて溶岩流を流し始めました。
しかし、ポリアフは決して屈しません。ペレの真っ赤な溶岩流に対し、自身の冷たい雪を投げつけ、炎を冷やして固めてしまったのです。この壮絶な戦いの結果、ポリアフはペレの炎を退け、マウナケアの雪を守り抜きました。
【フラの表現において】 このエピソードは、誇り高さと力強さの表現に直結します。ペレの炎(赤・熱・激しさ)と、ポリアフの雪(白・冷たさ・静寂)の強烈なコントラストは、美しくも凛とした女神の威厳をフラで描写する際の重要な要素となります。
2. 永遠の悲恋〜アイヴォヒクプアとの出会いと別れ
ポリアフのもう一つの有名な神話が、カウアイ島の首長(半神)アイヴォヒクプアとの悲しい恋の物語です。多くのハワイアンソング(メレ)で歌われるのは、この切ないエピソードです。
実はアイヴォヒクプアは、ポリアフと出会う前にマウイ島でヒナという首長と恋に落ち、後で必ず戻るという約束を交わしていました。しかしその後、ハマクアの海岸で雪のように白いマントを羽織った絶世の美女・ポリアフに出会い、彼は心を奪われます。アイヴォヒクプアはヒナとの婚約を破棄する儀式を行い、ポリアフと結婚して彼女を故郷のカウアイ島へと連れ帰りました。
悲劇は、カウアイ島での結婚の祝宴の最中に起こります。裏切られたことを知ったかつての婚約者ヒナが宴に乗り込み、彼の不誠実さを激しく非難したのです。周囲の首長たちもアイヴォヒクプアの行いを糾弾しました。
大勢の前で夫の過去の裏切りを暴露されたポリアフは、深く屈辱を味わい、この時点でアイヴォヒクプアを見限って一人マウナケアへと帰ってしまいます。ポリアフに去られたアイヴォヒクプアは、仕方なくかつてのヒナとの約束を果たす(ヒナを妻とする)ことに同意しました。
しかし、誇り高き雪の女神はただ泣き寝入りしたわけではありません。アイヴォヒクプアとヒナが結婚の夜を迎え、二人が一緒にいようとするたびに、ポリアフは自身の雪のマントから耐え難いほどの極寒の冷気を遠くから送り込み、二人を激しく凍えさせて関係を阻んだのです。
結果としてヒナは恐れをなして逃げ帰り、アイヴォヒクプアは両方の女性を失いました。しかし同時にそれは、ポリアフ自身が求めていたはずの「相手の愛情や情熱」をも永遠に冷まし、凍りつかせてしまうことを意味していました。愛する人の心の温もりさえも自らの冷気で奪い去ってしまうという、雪の女神ゆえの逃れられない寂しさと悲恋を抱え、彼女は心を砕かれたままマウナケアへと帰っていくのです。
【フラの表現において】 恋に落ちた時のあふれる情熱、裏切りによる深い屈辱と氷のような怒り、そして「愛する人の情熱をも自ら冷ましてしまう」という深い孤独と寂しさ。これらの一連の感情の起伏や背景のドラマを理解することは、指先や表情から冷たさと涙の温度を伝えるような、奥深い表現を生み出す源泉となります。
3. 名曲『Waimaka O Poliahu』に込められた感情
フラダンサーに広く親しまれている曲の一つに、フランク・カヴァイカプオカラニ・ヒューエット氏による名曲『Waimaka O Poliahu(ポリアフの涙)』があります。
この曲では、以下の様なポリアフの痛切な感情が綴られています。
- 愛の痛みと別れの悲しみによる、雪の女神の涙
- マウナケアの冷たい神聖な露(雪)
- 愛する人がおらず、温めてくれる人もいない孤独
- どうか戻ってきて、私を抱きしめてほしいという切実な願い
【フラの表現において】 曲名にある「Waimaka(涙)」には、山頂の雪が解けて流れる冷たい水と、彼女の悲しみの涙が重なり合っています。愛情を求めているのに、近づけば相手の熱を冷ましてしまう悲哀。かつての愛しい日々を思い出しながら冷たい雪山で一人涙を流す情景への共感は、「冷たい風」や「凍える胸」を表すハンドモーションに、単なる自然描写を超えた孤独な心情を持たせます。
まとめ
誇り高くパワフルな闘神としての顔と、相手の愛情すらも冷ましてしまう己の宿命に一人涙する繊細な女性としての顔。「二面性」こそが、フラを踊るうえで最大の魅力となります。
マウナケアの冷たい空気と、彼女の胸の奥で燃えていた愛の炎、そして愛を凍らせてしまった深い寂しさ。その複雑な感情の揺れ動きを知ることで、フラの表現はより一層深まり、観る人の心を強く揺さぶるパフォーマンスへと繋がっていくはずです。

コメント