カヒキからの航海と「ペレの懐」
ヒイアカ(Hiʻiaka-i-ka-poli-o-Pele)の物語は、まだ彼女が生まれる前の「卵」の姿で、姉ペレと共に遠い故郷カヒキ(タヒチなどのポリネシアの島々)から海を越えてハワイへやってきたところから始まります。航海の間、ペレは荒波にさらわれないよう、その卵を自分の脇の下、すなわち「懐(ポリ)」に抱きかかえて守り抜きました。ハワイの地に降り立ち、姉の温かなマナの中で孵った彼女は、その名の通り、強大な姉の庇護のもとで純真な妹として育ちました。

姉との約束と過酷な旅路
ある時、ペレは夢で見た恋人ロヒアウを連れてくるよう、末の妹ヒイアカに命じます。ヒイアカはこの命を引き受ける際、二つの約束を交わしました。一つは、自分が留守の間、ペレが大切にしているレフアの森と親友ホポエを守ること。もう一つは、自分が40日以内に戻ること、そして旅の間、決してロヒアウに触れないことでした。
ヒイアカは、姉から授かった聖なるパウ(稲妻を織り込んだと言われる、身を守るための神聖なスカート)とマナ(自然界を操り、死者を蘇らせるほどの超自然的な霊力)を手に、カウアイ島へと向かいました。その道中には恐ろしい魔物(モオ)や険しい自然が立ちはだかりましたが、彼女は武力ではなく、メレ(歌)やパレ(祈り)を捧げることで困難を鎮め、道を切り拓いていきました。また、立ち寄る先々の土地を称える歌を詠み、傷ついた人々を癒やしながら進むその姿は、地上にフラの精神を広める歩みでもありました。
嫉妬の炎とレフアの森
しかし、旅は予想を遥かに超えて困難を極め、約束の40日が過ぎてしまいます。ハワイ島で待つペレは、期限を過ぎても戻らない妹に対し、「裏切ってロヒアウを自分のものにしたのではないか」という激しい疑念と嫉妬を抱き始めました。一度燃え上がったペレの怒りは誰にも止められず、彼女は約束を破り、ヒイアカが何よりも大切にしていたレフアの森を焼き払い、そこで踊っていたホポエを溶岩で石に変えてしまいました。
悲劇の果ての自立
ようやくロヒアウを連れてハワイ島へ戻ってきたヒイアカが目にしたのは、空を覆う黒い煙と、無残に焼き尽くされた愛するレフアの森の姿でした。姉のために命をかけて旅をした結果、自分の大切なものをすべて奪われたことを知ったヒイアカは、深い絶望に突き落とされます。
この悲劇が彼女を大きく変えました。彼女は初めて、絶対的な存在であった姉ペレに対して真っ向から立ち向かいます。ペレは怒り狂い、ヒイアカに向かって熱い溶岩を浴びせかけました。しかし、ヒイアカは姉から授かったマナを盾にし、自らの強固な意志でその熱と衝撃を撥ね退け、溶岩の渦に巻かれても決して倒れることはありませんでした。そしてついにペレの猛攻を凌ぎきった彼女は、姉の支配を脱しました。
こうしてヒイアカは、誰かに守られる存在から、自らの足で立ち、フラを司る気高き守護神としての地位を確立したのです。
ヒイアカが「情熱と自立の旅」を通じてフラの道を切り拓いた一方で、もう一人の創始者として崇められているのが女神ラカです。
ラカの伝説によれば、彼女はモロカイ島のカアナという地に降り立ち、そこで初めてフラを踊り、人々に教えたと伝えられています。ヒイアカが「動」の象徴なら、ラカは「森の静寂」と「豊穣」の象徴。なぜフラを踊る時、私たちは森の植物を身に纏い、祭壇(クアフ)を整えるのか。
次回は、ヒイアカとはまた異なるルーツを持つ、「森の守護神ラカがもたらした、祈りと癒やしのフラ」の物語を紐解いていきましょう。

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