フラを踊る時、私たちは五感を研ぎ澄ませ、ハワイの生い茂る森の匂いや、そこに宿る神聖な空気(マナ)を感じようとします。
ハワイ島の東海岸、ヒロの街のすぐ南に、かつて「神々が住む未知の世界」と恐れられ、同時に深く崇められた広大な熱帯雨林があります。その名は「パナエヴァの森」。
フラダンサーが身につける高貴な植物「マイレ」や「レフア」が青々と息づくこの森には、溶岩の女神ペレの最愛の妹、ヒイアカが命を懸けて挑んだ、切なくも美しい戦いの記憶が刻まれています。
姉の願いを背負い、未知なる旅へ
物語の主人公は、ペレの最愛の妹であり、フラの守護神としても知られるうら若き女神、ヒイアカ(Hiʻiaka)。
ある日、彼女は姉のペレから、カウアイ島にいるペレの恋人「ロヒアウ」を連れてくるよう命じられます。
それは、険しい道中を歩み、恐ろしい魔物たちと戦わなければならない、あまりにも過酷な旅の始まりでした。まだ幼さの残るヒイアカでしたが、大好きな姉のために、親友のワヒネオマオを連れて命がけの旅路へと出立したのです。
しかし、ヒロの街に差し掛かった彼女たちの前に、最初にして最大の試練が立ちはだかりました。それが、不気味な妖気を放つ「パナエヴァの森」でした。
悪鬼パナエヴァとの死闘
この森を支配していたのは、変幻自在の力を持つ巨大な大トカゲ(モオ)の化身、パナエヴァ(Panaʻewa)。
彼は森に一歩足を踏み入れたヒイアカたちを激しく敵視し、行く手を阻むためにありとあらゆる恐ろしい大自然の猛威を仕掛けました。
森全体が生き物のようにうごめき、濃い霧が視界を奪い、凍えるような大雨と激しい嵐がヒイアカたちを襲います。鋭い植物の棘が彼女たちの肌を裂き、冷たい風が体力を奪っていきました。
「ここから先へは一歩も通さない」
圧倒的な闇の力に包まれ、ヒイアカは何度も挫けそうになります。けれど、彼女の心にあったのは、カウアイ島で待つ姉の恋人を無事に連れ帰るという「強い使命感」、そして隣で自分を支えてくれる親友への「愛」でした。
ヒイアカは、神聖な力が宿る「稲妻のパウ(スカート)」を激しく振りかざし、五感を研ぎ澄ませて大自然の猛威に立ち向かいました。激しい死闘の末、ついに姉ペレの雷の加護も得て、ヒイアカは悪鬼パナエヴァを打ち破り、森に光を取り戻したのです。
恐怖の森から「癒やしと再生の森」へ
闇が払われたパナエヴァの森は、それまでのみすぼらしい姿から一変しました。
嵐が去ったあとの大地には、瑞々しい「マイレの気品ある香り」が立ち込め、オヒアの木々には太陽の光を浴びた「真っ赤なレフアの花」が咲き誇りました。
この戦いを通じて、少女だったヒイアカは、困難に立ち向かう「勇気」と、傷ついた大地を蘇らせる「癒やしの力」を手に入れ、本物の女神へと優雅に成長を遂げたのです。
ハワイの人々が今でもパナエヴァの森に入る際、深く祈りを捧げ、決して傲慢な態度を取らないのは、ここが「神々が試練を乗り越えた、畏れ多くも美しい聖域」だからに他なりません。
『Hilo Hula』のステップに宿る、気高き強さ
当サイトでもご紹介しているハワイアンフラの名曲『Hilo Hula(ヒロ・フラ)』。その美しいメロディの中で、ヒロの街に続いてこのように歌われています。
Māpu ka hanu o ka maile i ka nahele
(森のなかに、マイレの香りが気高く漂う)
この「森(nahele)」こそが、まさにヒイアカが駆け抜けたパナエヴァの森を指しています。
フラで森の植物を摘むモーションをする時、あるいは風を押し返すような力強いステップを踏む時。
それは単に植物や自然を描いているのではなく、「目の前の困難(霧や嵐)に立ち向かい、自らの手で美しい光と愛を掴み取る、女性の内に秘めた気高き強さ」を表現しているのです。
次に『Hilo Hula』を踊る時は、ぜひあの青々としたパナエヴァの森の香りを胸いっぱいに吸い込むように、誇り高く胸を張って踊ってみてくださいね。




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